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札幌地方裁判所 平成8年(わ)858号 判決

本店の所在地

北海道登別市中央町三丁目一八番地二

法人の名称

有限会社ライラック

代表者の住居

北海道伊達市末永町二五番地

代表者の氏名

金本こと李美代子

国籍

韓国

住居

北海道伊達市末永町二五番地

会社役員

金本こと李美代子

一九二九年三月二五日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官加藤匡倫、林秀行、弁護人日浦力各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告会社有限会社ライラックを罰金一六〇〇万円に、被告人金本こと李美代子を懲役八か月に各処する。

被告人金本こと李美代子について、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社有限会社ライラックは、北海道登別市中央町三丁目一八番地二に本店を置き、遊戯場(パチンコ店)の経営を目的とする資本金五〇〇万円の有限会社であり、被告人金本こと李美代子は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括するものであるが、被告人李は、被告会社の業務に関して法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により、所得を秘匿した上、

第一  平成五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が一億五三一九万五六三七円であったにもかかわらず、同六年二月二八日、北海道室蘭市入江町一番地一三所在の室蘭税務署において、同税務署長に対し、所得金額が七九八八万三九六七円で、これに対する法人税額が二九〇七万五六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額五六五六万七六〇〇円と右申告税額との差額二七四九万二〇〇〇円を免れた

第二  平成六年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が九六九八万五五四四円であったにもかかわらず、同七年二月二八日、前記室蘭税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二九三二万一九〇五円で、これに対する法人税額が一〇一二万五五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三五四九万九五〇〇円と右申告税額との差額二五三七万四〇〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

(括弧内の甲乙の番号は、証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号である。)

判示全事実について

一  被告人李の当公判廷における供述

一  被告人李の検察官に対する供述調書(乙一)

一  中村ミツエ(甲一二)及び加藤幸成(甲一三)の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の

1  売上高調査書(甲二)

2  給料手当調査書(甲三)

3  租税公課調査書(甲四)

4  受取利息調査書(甲五)

5  雑損失調査書(甲六)

6  事業税調査書(甲七)

7  領置てん末書(甲八)

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲九、一六)

判示第一の事実について

一  押収してある確定申告書(平成八年押第六八号の1)

判示第二の事実について

一  押収してある確定申告書(平成八年押第六八号の2)

(法令の適用)

一  罰条

1  被告会社について

いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項(なお、罰金額については、いずれも法人税法一五九条二項を適用し、免れた法人税額に相当する金額以下とする。)

2  被告人李について

いずれも法人税法一五九条一項

二  刑種の選択

被告人李についていずれも懲役刑を選択

三  併合罪の加重

1  被告会社について

刑法四五条前段、四八条二項により罰金の多額の合計以下の範囲内で処断

2  被告人李について

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重

四  執行猶予

被告人李について、刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、被告人李が経営する被告会社の平成五年一二月期及び平成六年一二月期の法人税額合計五二八六万六〇〇〇円の納付を免れた法人税法違反の事案である。

被告会社は、昭和六一年にそれまで被告人李が個人で経営していたパチンコ店の経営のために設立され、その後平成二年ころから、被告人の指示に基づき売上の一部を毎日一定額の割合で除外する方法により法人税の支払を免れており、特に平成五年からは、毎日売上の約一割に当たる約三〇万円を売上額から除外し続けていたものであって、その態様は単純とはいえ、連続的な行為に基づく脱税であって、悪質である。被告人李自身は直接関与していないといっても、コンピューターを操作して売上を除外していたもので、計画的かつ周到な犯行で、その意味でもその犯情は悪質である。合計逋脱金額も二年間で五〇〇〇万円を超え、しかも逋脱率は平成五年度が四八パーセント、平成六年度が七一パーセントといずれもその程度が低いものとはいえないことに照らすと、その結果も軽視できない。被告人李は、過去貧しい生活を余儀なくされたこと、パチンコ店の経営に波があること、また以前から本件と同様の売上除外を行っていたこと等の事情から、簿外の現金が欲しくて本件脱税行為を行っていたものであるが、今回の税務調査に伴って相当多額の割引債が発見されているところからみても、本件当時においては右のような動機に到底酌量の余地がないことは明らかである。税金を正しく申告して納付することは会社を設立して営業活動を行う以上当然の義務であり、このような義務に大きく違反した被告会社及び被告人李の刑事責任には、やはり重いものがある。

しかしながら、被告人李は、本件について現在では深く反省をし、今後はこのような行為を絶対にしない旨誓っていること、既に法人税の修正申告をし、その差額、重加算税、延滞税等について既に納付済みであること、前記のように所得を隠す行為自体は基本的に売上の除外という単純な行為のみであること、被告人李には前科がないこと等被告会社及び被告人李にとって有利に斟酌すべき事情も認められる。

そこで、当裁判所は、以上の諸事情を総合考慮し、被告会社に対しては主文掲記の罰金を科し、被告人李に対してはその刑の執行を猶予するのが相当であるとの結論に至った。

(求刑 被告会社について罰金二〇〇〇万円、被告人李について懲役八か月)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 若園敦雄)

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